キンタマの裏をまじまじと見つめることは、良いことではない。これは、彼から教わった教訓だ。しかし、その彼がいない。彼は行方不明なのだ。
だいたい、彼1人だけ、旅館スリッパがフィットしていなかった。いや、始めはフィットしていたのだ。風呂でそのスリッパを脱いだのが運の尽き。見事に履かれちゃったよ、彼のスリッパ。隅っこに寄せといたのに。
しかも、それを履いたのは、ちょっと知ってるけど、そんなに知らない5組の平林。平林が今、履いているのは、思いっきり彼のスリッパ。だって、そのスリッパ、旅館名が太字。彼のだけが太字だったんだ。ボロボロの感じも一緒だ。
これは、すっげぇ言いにくい。中途半端な知り合いだから、よけいイヤ。彼はなんて言えばいいんだろう?「これ、俺のスリッパ!」、「それ、隅っこに置いてなかった?」、「スリッパ替えてぇ」、どれもこれも不自然だし、角が立つ。
彼は仕方なくあきらめた。そのせいで、スリッパから踵がはみ出てた。見事に。きっと、かかとはホコリだらけだろうね。
そんな彼の状況に、俺はデジャヴュした。俺もこれは経験している。スリッパじゃない、グローブでた。学校の体育の時間、ソフトボールしたんだ。その時のグローブは、学校の腐ったグローブ。その中から自分に合ったいいやつを探してきたのに。自分の攻撃の間に、誰かに使われちゃってた。残ったのはちっちゃいグローブ。この時も、誰が使ってるか分かった。マークで分かった。