殺人事件編


 害者は後頭部を後ろから鈍器で殴打されている。ん、鈍器?
 鈍器とはズシリと重く、課長の期待を裏切らない、ファンシーなスパナだ。ん、課長の期待?
 課長の期待はいつも大きすぎてネチネチ。ん、ネチネチ?
 ネチネチは君の風呂上がりの耳糞のことだ。つまり、この事件は謎だらけってことを表しているのだ。
 害者の靴下が黒ずんでいる。旅館に泊まり、温泉に入り、あとは飯を食うだけ。そんな男の靴下が黒ずんでいることがあるのだろうか。この事実から分かることは、害者は靴下の替えを風呂場に持っていかなかったということだ。
 そんなことが分かっても仕方がない。なぜ害者は靴下をはいたのだ。風呂上がりにわざわざ汚れた靴下をはくやつはいない。しかも害者は浴衣を着ている。浴衣に靴下……。
 分かった。害者は旅館初体験。だから、宿帳書く時おどおど。
 違う。これも違う。害者はきれい好きで、旅館のスリッパをナマ足ではく勇気がなかったのだ。だから汚れていても、靴下をはいたのだ。自分の海パンがビニールに入っているのは別にいいが、それが他人のだといやな感じがするのと同じだ。
 いや待てよ。害者は「玉袋って酸っぱいよね」と話していたらしい。自分の玉袋の臭いを、しっかり把握しているやつはきれい好きとは言えない。
 とにかく今までに分かっているのは、害者の姿が不自然だということだ。つまりこの靴下は、犯人によってはかされたのだ。何かを隠すために。そう、害者の足は物語っているのだ。犯人が誰かということを……。
 よし、靴下を脱がすぞ。犯人は誰だぁ!
 むむ、くるぶしがカサカサだ。それ以外に不審な点はない。つまり、このカサカサくるぶしがダイイングメッセージ!
 うーむ、魅入られるほどの見事なカサカサ。これはまるでおばあちゃんの肌だ。ん!おばあちゃんの肌だとっ!?
 そんなことから何かをひらめくやつはいない。
 結局、また振り出しに戻る。だめだ。これは普通の事件じゃない。何か奇抜なことをしなければ謎は解けない。
 奇抜なこと……。違うっ!害者の浴衣をきちんとたたんだって、解けるはずがない。もっと他にないのか?もっと……。
 おやっ、豪華な料理が並んでいる。つまり、害者は飯を食う前に殺されたって訳だ。ミニスキヤキの火もまだついている。グツグツいってる。
 う、うまそうなんだな。いけない、欲望に目がくらんでは。この謎が解けるまで、飯はおあずけさ。だけど、天ぷらはいいでしょ?エビ好きなんだよねー。
 はうわぁ。天つゆがない。ない、ない、ない。どこにもない。それとも、もとから天つゆはないのか?それは不自然だ。料理長はどこだ!
 料理長に聞くと、やはり天つゆはあったのだ。じゃあ、あるはずのつゆはどこにいったのだ?
 むむ、ひらめいたっ!黒ずみの謎が分かったぞ!
 チュー、チュー、チュー、いいダシだ。害者の靴下をしゃぶると天つゆの味がする。靴下のよごれと思われた黒ずみは、天つゆだったのだ。つまり害者は天つゆに足をつっこんだということだ。
 だから?バッカじゃないの?そりゃ殺されるよ。料理を作った人に失礼だよ。
 んんっ!分かった。害者は天つゆに足を入れたいという、訳の分からない好奇心に負け、実行した。そしてそれを料理長に見られ、鈍器で殴られたのだ。
 料理長は料理を作る長、料理に対する愛情は人一倍強いはずだ。考えられない話ではない。
 しかし、それは推測の域を出ない。まずは凶器探しだ。解決編はまだ遠い。


遠いねぇ