プロレスリング・疑心編


 カァ〜ン!
 ゴングが鳴った。俺、チンチラマスクは、この試合は絶対に負けられない。
 今、リングの中央でおもしろい顔をして、俺を笑かそうとしている田中は素足のレスラーだ。こんな意味もなく素足でいるようなレスラーには絶対に負けたくない。
 ムムッ!田中がこっちへ向かって走ってきた。すごい形相だ。俺はビビッて、ライガーさんにタッチ。しまった!これでは田中に背中を向けることになる。俺は後頭部に田中のオリジナルの技、低周波チョップを喰らってしまった。
 なんてえげつないやつなんだ。後ろから攻撃するなんて。俺はフラフラだ。なんだか低周波が気持ちいいのかな。トロ〜ンとしてくる。がんばってください、ライガーさん。俺はもう駄目です。
 俺はうつろな頭で考えた。田中はきっと猫の首をつかんで、持ち上げることができるだろう。ウサギの耳を握って持ち上げることができるだろう。かわいそうなんて思わないやつなんだ、田中ってやつは。家ではハムスターを2匹飼っているはずだ。餌で口がパンパンなのに、その頬をもみしだく男だ。きっとそうだ。そうに違いない。
 はっ!俺は一体何をしているんだ?試合は、ライガーさんはどうなっているんだ?
 なんてことだ。ライガーさんのマスクのツノが破れて、綿が出ているじゃないか。そのせいでリングは綿だらけだし、ライガーさんのツノはふにゃふにゃだ。
 しかも、なぜかライガーさんはタラコを、力一杯握りしめている。これでは、いくらライガーさんでも反撃できない。
「ライガーさんタッチ!タッチ!」
 ライガーさんは田中の隙を見て、俺とタッチした。ライガーさんは口の中までタラコだらけだ。もちろん口元も。これはどういう訳なんだ?
 ライガーさんは俺にタラコを手渡してきた。分からない。ライガーさんの真意が分からない。このタラコをどう活かせと言うのだ。俺は両手をタラコにふさがれ、田中に3カウント取られ負けた。素足のレスラーに負けた。


タラコ固め